乳汁不足と鍼灸
産後の母乳の出が少ない、あるいは出ない状態を東洋医学では「乳汁不足」と呼びます。
母乳の仕組み
乳汁(母乳)が造られるメカニズムは
西洋医学的にはホルモンバランスの変化によります。
妊娠維持のために働いていたホルモンが産後減少し、
乳汁(母乳)を作ることを促し排卵を抑制するように働くホルモンが増えることで
乳汁が盛んに作られるようになる、わけです。
さらに赤ちゃんが乳首を吸う刺激により、乳汁の産生が促されます。
この時分泌されるホルモンは子宮を収縮させる作用があるので、
母乳による授乳は子宮復古(子宮が妊娠前の大きさに戻ること)にも関わっています。
乳汁不足の原因
西洋医学的原因
〇ホルモンバランスを司る脳下垂体の機能失調
〇栄養不足
〇心身の疲労
などの全身的要因
〇乳腺の発育不足
〇乳管が詰まっている(乳汁を排出しづらい)
などの局所的要因
東洋医学的原因
東洋医学では乳汁は気・血が変化したものと考えられます。
(西洋医学的にも乳汁は血液が変化したものとされます)
よって、乳汁不足は血と関係の深い臓器や経絡の機能失調によるものと考えられます。
〇出産に伴う出血過多による血虚(貧血)
または気・血ともに弱る気血両虚
元々虚弱な体質の方が出産により、気血がより少なくなり、母乳を作れない
つまりは気力・体力の低下。
乳汁は水様、乳房は柔らかく張りなく、息切れ・めまい・動悸・疲労などの症状が現れやすい。
〇脾虚(脾の臓の失調)によるもの
①脾は運化を主(つかさど)る
生化=飲食物から得た栄養物質から新しい氣(気・血・津液)を作り出す
運搬=津液(血中の水分、リンパ液、組織液など体内の水分)の吸収と運搬・・・水分代謝
生化作用と運搬作用を合わせて運化作用と呼ぶ
脾胃が弱り、新しい氣(気血水)を充分に作れなくなり、血虚につながる。
栄養が足りない(飲食物から栄養を取り出し吸収できない)ので乳汁不足となる。
②脾は昇清を主る
清とは人体に必要な栄養物質のこと。
昇清とは運化作用で作り上げた栄養物質を脾より上部にある心や肺、頭、目、耳、鼻、口など
上部にある臓腑や器官に届けたり、重力に逆らって内臓(六臓六腑)を適切な位置に保つ。
昇清作用が低下することで、めまいや立ち眩みなど栄養不足による症状や
内臓下垂、尿漏れ、子宮脱、下痢・軟便など下降的症状につながる
栄養が流れ出てしまうこと、栄養が乳房まで届かないことで乳汁不足となる。
③脾は統血を主(つかさど)る
統血とは血が血管から漏れ出ないようにする作用。
統血作用が低下することで、鼻血や不正出血など出血傾向になり、血虚につながる。
栄養不足となり乳汁不足となる。
(因みに軽い打撲などで知らないうちに手足等に内出血することが多い方は血管が脆くなっており、
脾虚傾向にあることが考えられます。)
〇肝虚(肝の臓の失調)によるもの
①肝は疏泄(そせつ)を主る
疏泄とは情志活動、消化吸収、気血の運行が滞りなく機能するよう制御する働きのこと。
疏泄作用が低下すると、情緒の不安定(イライラや抑鬱)、食欲不振、胃痛・胃潰瘍など消化器系の不調、動悸、息切れ、肩こり、頭痛、手足の冷えや震え、などの症状が現れやすい。
精神的ストレスにともなう消化器系の不調により、乳汁不足となる。
②肝は蔵血を主る
血の貯蔵と血流量の調節を制御する。
血虚によって肝の働きが失調すると気血の巡りが悪くなり、
母乳の出る通路が詰まり出づらくなる母乳が出づらくなる。
〇脾虚肝実
血虚(血が足りない 或いは血に栄養が少ない)となり、氣(気血水)の流れが緩慢になって
臓器や経絡その他に停滞したものを瘀血(おけつ)と呼び、
瘀血が形成されるような状態を血瘀(けつお)、または肝実という。
脾虚を主として瘀血(おけつ)が生成され、肝実を伴う状態を
経絡治療(当院の主とする鍼灸治療法)上、脾虚肝実と呼ぶ。
新しい気血が造れず、且つ気血の巡りが悪く、乳汁不足となる。
※乳汁不足になる方は同様の病因から産後鬱にもなりやすい傾向があるので要注意
乳汁不足に対する鍼灸によるアプローチ
上記のように乳汁不足といっても状態も原因も違うし、
元々の体質や体力、思考習慣、環境等も違うので、
当院においては「乳汁不足のツボ」など短絡的な対症療法はあり得ません。
心身全体をひとつのものとして観る東洋医学的身体論を基礎に、
お一人お一人の病態・体質・体力・体調に細やかに応じながら、全身の機能失調を整え、
治癒力の回復、生命力の強化を図る鍼灸治療を提供致します。
またホルモンの分泌を主る脳下垂体の状態は、
内科的要因とともに骨格上の歪みの影響も受けますので、
当院では東洋医学的考察だけでなく、
構造的問題(頭蓋骨・脊柱・骨盤・股関節・四肢の関節など)も考慮して治療に臨みます。
内科的調整と構造的調整により、その人の持つ本来の治癒力を引き出すことで、
結果として様々な症状は自然と治まってゆくでしょう。
※養生(食事や姿勢の問題など習慣上の問題点の改善)の如何によって予後は変わります。
将来のために
栄養価から考えると母乳にこだわらず、粉ミルク等を上手に利用することは
現代にあっては極普通のことです。
また何らかの理由によって人工乳に頼らざるを得ない場合もあるでしょう。
ただ、母乳神話ではないですが粉ミルクによる授乳では得られない効果が
母乳での授乳にあることもまた事実でしょう。
母乳のメリットは
〇栄養面で最も人体に適している
○免疫成分に優れ、感染症の予防となり、感染しても治りが速くなる 病気に強くなる
〇人工乳に比べて消化・吸収しやすい
〇哺乳瓶よりも吸引力が必要なので顎の力が鍛えられる
将来の歯並び・顔立ち等に影響
○哺乳瓶よりも吸引力が必要なので集中力・忍耐力が鍛えられる
〇哺乳瓶での授乳よりもお母さんとの距離が近く、安心感が大きい 精神的に安定する
など赤ちゃん側のメリットはもちろんのこと、メリットはお母さん側にもあります。
〇肌と肌の触れ合い(人工乳による授乳よりも密着度が高い)、赤ちゃんが乳首を吸う刺激により
オキシトシン(別名愛情ホルモン)の産生が促される。
- 精神が安定しやすい
- 子宮の収縮を促す(子宮復古が早まる)
- 出血を抑えるのを助ける
- 悪露の排出を促す
- 抗うつ効果
- 授乳期間が長いと乳がん、卵巣がん、子宮がん、その他の疾患のリスクを下げる
- 夜中の授乳は母乳授乳の方が睡眠時間が得られやすい
- 減量を助ける
などなど。
プランA
お乳が出ない・少ない → そういう心身の状態が問題 → 自分のため・赤ちゃんのために心身を整えてみよう。
プランB
お乳が出ない・少ない → 人工ミルクでいいか。
どちらが正しいというわけではないけれど、治療可能な状態ならば
当院はプランAをお勧め致します。
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院長 吉良 淳
はり師・きゅう師(国家資格)
漢方鍼灸臨床研究会認定漢方鍼灸医
日本刺絡学会認定鍼灸師
FTPピラティス認定ベーシック・トレーナー
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